新人類の少女

新人類
 今から1万年ほど前、特殊な人類が誕生した。
 彼らは超能力を持っていた。物体を精神力で動かすことや、テレパシーで離れた場所でも会話することができた。
 当然、普通の人類より優位に立てるはずだったが、彼らには致命的な弱点があった。
 病原菌に弱いのだ、彼らは人間と同じ病原菌に感染するが、その致死率は人間をはるかに上回わった。
 だから、彼らは病気の感染を避けるため小さな集団を作ってお互いに離れて暮らすようになった。
 特に、決して人間には近づかなかった、人間からの病原菌が彼らに感染するからだ。
 彼らは人間を避けるため人間の居住地域から離れた山の中に住んでいた。
 彼らは超能力で人間の接近を遠くから探知できるので、決して人間に合わないようにしてきた。しかし、このため
 人間は彼らの存在に気づくことはなかった。
 彼らの社会は非常に閉鎖的だった、掟を破ったものは厳罰が下された。
 若い者はこれに反発し、部族を飛び出して人間に近づく者もいたが、すぐに病に倒れた。

 彼らは日本にも住んでいた、そして、ある少女が部族を飛び出して山を降りてきた。
 彼女はエビー、16才。


 永田は就職できずに学校を卒業した、求職活動をするがそれも2年目になった。自信をなくし、友達もなく、将来にまったく希望が持てなかった。
 失業中ですることもないので近所の山を歩いていた。
 一休みをしていて、ふと、顔を上げると一人の外国人の少女が立っていた。
 顔はほりが深く額が飛び出している、茶色の髪を長く伸ばしていて今まで見たこともないような感じの外国人だ。
 少女は永田をじっと見つめている、と突然頭の中で声がした。
「こんにちわ」
 永田は何が起きたのか分からず唖然としていた。
 するとまた頭のなかで声が
「ここで何をしているのですか?」
「今の、君が言ったの?」
 永田は少女に尋ねた。
「そうです」
 少女は口をまったく動かしていないのに声だけが聞こえる。
 永田は不思議でたまらない。
「これ、何なの、なぜ、声が聞こえるの?」
「テレパシーです、私たちはテレパシーができるんです」
 びっくりである。
「私、エビーといいます、人間と仲良くなりたいんです」
「えっ、」
 永田は声をつまらせた。
「人間と仲良くって・・・、すると君は人間じゃないの?」
「親戚みたいなものだけど、別の人類だそうです」
「別の人類?」
「犬とオオカミみたいな関係だそうです」
 そう思って彼女をみると、人間とはかなり違う顔立ちをしている、かわいい顔をしているが目が鋭い。
 エビーは永田の横に座った。
 エイリアンみたいなのが隣に座っている、永田はどきどきだった。
「どこから来たの?」
 永田が聞いてみた。
「山の奥の奥の奥です」
「宇宙からじゃないの?」
「すごい山奥に住んでいるんです」
 二人はしばらく話をした。
 エビーの部族は100人くらいで、地下の穴に住んでいることや、その地下でキノコを栽培していること、
 言葉が違っていてもテレパシーなら会話ができることなどをエビーは話した。
 エビーは話が上手だ、初対面なのに永田はすっかり打ち解けてしまった。
「ほら」
 エビーが手を向けると石ころが宙に浮き上がった。
「人間にはこんなことはできないんでしょう?」
「すごい、それ超能力?」
「そんなもんかな」
 エビーは一度も開かない口を永田に見せた。
「私、今、息を止めているんです。息を止めて空気を直接取り込むんです」
「なぜ、息を?」
「人間の近くには、ばい菌がいっぱいいるんです、それを吸い込まないためにです」
 これはエビーが考えた方法だった、超能力を使って呼吸をせずに直接空気を取り込むのだ。
「息をしなければ人間の近くにいても病気にならないはずです」
 永田にはよくわからない
「私は、この方法で人間の近くにいても病気にならないことを証明したいんです。そうすれば山奥に隠れていなくてもすみます」
 エビーはずっとこの方法を考えていたのだ、そして、練習もした。うまくいくと思って部族長に提案したが理解してもらえなかった。
 それでもあきらめきれず、自分で実験してみるために部族を離れ山を降りてきたのだ。
「私が一ヶ月間人間の近くにいて、ピンピンして帰ったらみんなビックリ仰天ですよ」
 エビーは自分の実験の事を永田に説明した。
「しかし、もし、君のその、息を止める方法がうまくいかなかったらどうするの?」
 エビーは髪をふった。
「その時は死ぬだけよ」
 エビーは簡単に言う、とても自分にはこんなことはできない、と永田は思った。
「永田さんはどんな仕事をしているんですか?」
 エビーは彼の事を聞き始めた。
「いや、べつになにも」
「なにも仕事がないんですか」
 エビーはすごく興味を示した。
「仕事なしの人がいるなんて信じられない」
 エビーの部族は小さな集団なので、全員が手分けして何かの仕事をしなしと全体が生きていけない。
「人間の社会にはいるんだよ、仕事がない人がいっぱい」
「へー、いいなー」
「よくないよ、仕事がないと生活できない、結婚もできない、お先真っ暗だよ」
 エビーはちょっと考えた
「なぜ公平に仕事を割り振らないの」
「俺もそう思うよ、ところでこれからどうするの?」
 永田は話を変えた。
「これから住む所を作るの、地下に穴を掘って枯れ草をひいて」
 エビーの話を聞いていると永田は惨めな気分になる、やることが壮大すぎる。
「どうやって、超能力?」
「そう、超能力で穴を掘るの、超能力があっても人が入れるくらいの穴を掘るのは大変よ、それから中は完全消毒、眠っている間は息を止められないから、ばい菌は完全に殺しておかなくちゃね」
エビーは立ち上がった。
「そう、そろそろ準備しないと暗くなっちゃう」
「そうだね」
「じゃあね」
 エビーは山の方へ行こうとする。
 永田はあわてた、エビーにまた会いたい。
「あ、あの」
「なに」
「また、会える」
「大丈夫よ、テレパシーは離れていても通じるの、時々私から連絡するね」
 エビーは手を振って山の方へ歩いていった、永田はその姿を見えなくなるまで見送った。




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