新人類の少女

風邪
「ごめんね、時間がないの」
 2人は少し飛んで、見晴らしのいい高台に着陸した。
「私たちの社会には裏本と呼ばれる本があって、禁止されている本だけど、あたし読んだの」
 エビーが話始めた。
「人間に接近した人が書いた本で人間の事が書いてあるの。エビーが言う「人」とは彼ら別人類のことである。でも、人間に接近した人は病気に感染して死ぬ、だから、人間に接近して死ぬまでの事が書いてあるわ」
 エビーは真剣に話す。
「私の息を止める方法は失敗するかもしれない、その時は私は死ぬ、だから昨日は記録を書いて友達に送ったわ。もし死ぬなら、発病するまで5日くらい、その後死ぬまでに5日間くらいなの。今日は2日目、もっと人間の事が知りたい、だから、付き合って欲しいの」
 エビーの真剣な目は怖いくらいだ。
「そうか、わかったよ、なんでもする、なんでも聞いてよ」
 エビーは身を乗り出した
「まず、一番知りたいのは、風邪を直す方法なの。私たちには風邪は致命的なの、風邪の感染者がでた部族は全滅するわ。数年前、部族全滅が起きたことがあるの、テレパシーで様子が伝わってくるの、泣き声や、悲鳴、逃げ出す者もいる、でももう手遅れなの。だんだんテレパシーの数が減って、やがて何も聞こえなくなる。でも、人間は風邪では死なない、だから、その治療法を調べに何人もの人が人間の所に行ったわ。でも、人間は絶対に風邪の治し方を教えてくれない」
 エビーは永田を見つめた。
「治療法は人間の秘密だってことはわかってる、でも教えて、教えてくれたら何でもする。人間は標本を作るのが好きなんでしょう、私標本になってもいい。」
「いや、秘密にしている訳じゃない、人間にも風邪の治し方はよく分かっていない、ただ自然に治るんだ。しかし、治療法もある、ワクチンとか風邪に効く薬がある」
 永田はワクチンや薬について詳しく説明した。
 エビーは病気の治療法についてたくさんの質問をした、永田は知っている限りの事を教えた。
 ちょっと話が途切れたところで永田は言った。
「君は大丈夫だと思うよ」
「なにが?」
「君の息を止める方法は絶対に成功するよ、君は、絶対に病気になんかならない」
 エビーは笑った
「ありがとう」
 エビーは板のようなものを持っていて、話を聞きながらそれを擦っている。
「それ、なんなの?」
「これ、テレパシーが記録できるの、これが私たちの本かな、これがたくさんあって、これを読むといろんなことが分かるわ」
 エビーはちょっと黙っていたが
「ねー、さっき、永田さんの仕事のことで私まずいことをしたんじゃない?」
「いや、大丈夫だよ」
 永田はやさしく笑った、さっきの面接は多分だめになっただろう、と思った。
 エビーは目を伏せた。
「あの、言いにくいけれど、お願いがあるの」
「なに」
「もっとたくさんの人間に会いたいの、だれか紹介してくれない」
 なるほどと永田は思った、しかし、それではエビーを独占できなくなる、ちょっと嫉妬も感じた。
 永田には親しい人がほとんどいなかった。
 唯一の親しい人は大学の時の先生だった、就職のことで時々相談にいく、親身に話を聞いてくれるいい先生なのだ。
 杉浦先生ならエビーの話を聞いてくれるかもしれない。
「僕の先生を紹介するよ」
「紹介して、お願い」
「急ぐんだね、ちょと待って電話してみる」
 永田は携帯で電話した、来てくれとの返事だった。
「大丈夫だって、いこうか」
 いきなり、ガクンと肩を引き上げられる、かなり荒っぽい、地面がぐんぐん離れていく。
 エビーが永田を連れて飛び上がったのだ。
「いたいよ、それに、どこに行くのか分かっているの」
「どっちなの、教えて」

 ものすごい早さで飛ぶ、風で服が引きちぎれそうだ、あっと言う間に大学まで飛んできた。
 上空から大学をみるのは不思議な感じだ。
 学生課の建物が見えてきた。
「あそこが学生課だ、あそこに降りて」
 永田には、騒ぎにならないように人目につかない所に降りるつもりだった、しかし、エビーには空を飛んでいることを隠す気はまったくない。
 エビーは急降下を始めた。学生課の建物の前は大勢の人が歩いている。
「えっ、違う、まって」
 あわてて永田が言う。
「えっ、違うの?」
 エビーは着陸直前、地面から3メートルくらいの所で止まった。
「いや、そうじゃなくて・・・」
 二人は空中に浮かんだままだ。
「見られちゃうよ、ほら隠れて隠れて」
 永田が叫ぶ、しかし、エビーは意味がわからない。
「浮かんでる!」
 誰かがびっくりして叫んだ。
 その場にいた全員がこちらを見た、驚きの声が一斉に広がった。
 エビーはそのまますーと着陸した。みんなが二人を見ている。
「行こう」
 とエビー
 二人は学生課に向かって歩く。
「ねー、君たち今空を飛んでいたよね」
 みんは口々になにか言い出した。
「みんなどうしたの?」
 エビーは眉をしかめた
「人間は空を飛ぶことに慣れてないの」
 永田もちょっとむっとした、さっきの面接の時といい、エビーはもう少し気をつけるべきだ。
 学生課の受付に行く。
 少し待ってくれとのことで二人は近くの椅子にすわった。
 学生課の入り口付近には大勢の人が集まって二人の方を見ている。
「あのふたり・・・」とか「浮かんでた・・・」とかの声が聞こえてくる。
「まずいな、逃げようか」
 永田が言う
「杉浦先生に会うんでしょう、ここでまってなきゃ」
 エビーは小さな部族での経験しかないから、騒ぎになることが理解できていないのだ。





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