新人類の少女

さわぎ
「先生あの二人です」
 入り口の方で声がした。
 学生が先生を連れてきたらしい、先生と呼ばれた男は二人の方へ近づいてきた。
 そして、彼は二人の前に立った。
「君たち、あー、不思議な話を聞いたんだが、君たちが空を飛んでいたと」
 彼はちょっと間をおいた。
「馬鹿げた話だとは思うが、みんな見たと言うんだ」
 さらに間をおいて。
「どうなんだ!」
 エビーはすっと立ち上がった。
「本当です」
 エビーがテレパシーで答えた、テレパシーは永田にも聞こえた。
 彼は頭の中の声にびっくりしている。
「これはテレパシーです、頭の中に直接語りかけています」
 エビーは続ける
「私は人間とは別の人類です、人間と友達になりにきました、私達はテレパシーとか空を飛ぶとか、いろんな超能力が使えます」
 エビーはりんとして言った。
 彼は目を丸くして2、3歩さがった。何かを言おうとしたが言葉にならず、そして、たまらずに、
 何かを叫びながら入り口の方へ走って行ってしまった。
「彼には刺激が強すぎたみたいだね」
 と永田
「こうしてみると僕は、結構、度胸があるんだな」
 エビーの顔を見て
「君の顔、かなり恐い顔してるしね」
「どういう意味よ」
 エビーは肘で永田を小突いた。
 人だかりはますます増えてきた、みんな近くには来ないが入り口も窓の外も人だらけだ。
「行こうか」
 永田は心配だ
「杉浦先生にあってみたいんです」
 エビーはゆずらない。
 しばらくすると入り口から1人の男がこちらにやって来た、彼はなんとあの杉浦先生だった。
「やあ、永田君」
 杉浦先生は騒ぎの内の1人が彼だと知って驚いた。
「先生、ご無沙汰しています」
 永田は丁寧に頭を下げた。
「あの、ご相談があって来ました」
「相談?まあ、すわろうか」
 3人は付近の椅子にすわった。
「先生、僕は偶然、人間とは別の人類に会ったんです」
「彼女のこと?」
 と杉浦先生
「そうです、彼女です」
「わたし、エビーといいます、今、テレパシーで頭の中に直接話しかけています」
 杉浦先生は指先で頭を抑えた。
「今の君の声?」
「そうです、テレパシーです、言葉が違っても、テレパシーなら意志が通じます」
 エビーは今までのことを詳しく杉浦先生に話した。
 また、自分たちは病気に弱いこと、一旦感染症が発生すると確実にその部族は全滅してしまうこと、
 特に、人間は病原菌を発散しているので、人間の近くは自分たちには大変危険なこと、などを説明し。
 病気の治療法を調べるために危険を犯して人間の所へ来た事などを話した。
 杉浦先生は話を静かに聞いていた、話が終わると、少し考えてから
「まず、この騒ぎをなんとかしよう」
 先生は立ち上がった
「ついて来なさい」
 彼は群集に近づくと
「みんな解散だ、なんでもない、手品のトリックの練習をしていたんだ」
さらに大声で
「ただの手品だ、解散しなさい」
 そして2人を連れて群集の中を進んで行った。外へ出て、先生の研究室へ行った。
「ここなら大丈夫だ」
 杉浦先生は扉を閉めた。
「さてと、話は聞いた、が、本当のことか確かめたい、超能力があるんだね、見せてくれないか」
「空が飛べます」
 エビーはすーと空中に浮かんだ。
 杉浦先生はうなった
「皆さんを飛ばすこともできます」
 永田と杉浦先生はぐぐっと持ち上げられた、二人共宙に浮いた。
 杉浦先生は足をばたばたしている
 吊り下げられたような感じなので、なれないと不安になるのだ。
「降ろして、降ろして」
 杉浦先生は悲鳴をあげる
 すとっと2人は降ろされた
「さっきはこれを見られたんです」
「ふー」
 杉浦先生は荒い息をしている
 先生はお茶とお菓子を出してくれた。
「まず、医者だな、大学の医学部に親しい先生がいる、彼に相談してみよう」
「お願いします」
 永田が言った。
 エビーはお茶とお菓子の上に手をかざしている。
「なに、やっているの」
「殺菌です、食べるものは全部こうやって殺菌するんです」
 エビーは殺菌が済んだお菓子を口に入れた。
「わー、おいしいですね、こんなの始めて食べました」
 エビーの部族は原始人の生活をしているのだが、人間の文明に接してもまったく驚かない。
 テレパシーによる記録ができ、情報交換もしているので文明が低いわけではないのだ。
 杉浦先生は力になると約束してくれた


 永田は自宅に帰っていた。
「面接、どうだった?」
 母親が心配して聞く。
「多分、だめだった」
「えっ、面接でなのかミスでもしたのかい」
「そんなとこ、かなりすごいこと、しちゃった」
「そうなの、でも、なんか、楽しそうな顔しているよ」
「そうかな、そう、楽しいこといっぱいなんだ」
永田はうれしそうだった
夜、エビーからテレパシーが来た。
「今、今日あったことを記録してるの、今日はいろんなことがあったから大変」
「杉浦先生から連絡があったよ、明日、研究室に来てくれって、僕も行こうか?」
永田は一緒にいくつもりだった
「いいわ、私1人で行く」
「僕も一緒に行くよ」
「これ以上迷惑はかけられないわ、1人で大丈夫よ、朝おきたらすぐ行く」
「迷惑じゃないよ」
「心配しないで、大丈夫よ」
エビーはがんとして譲らない。
「そう、じゃあ、がんばってね」
「もう、寝るの?」
「ああ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
テレパシーは切れた。
永田は横になった。
エビーはよそよそしかった、それに時間を言わなかったのに、朝だって知っていた。
そうか、杉浦先生ともテレパシーで連絡しているんだ、明日のことはもう知っていたんだ。
そうなんだ、多分、自分はもう必要なくなったんだ。
急に寂しさがこみ上げてきた、エビーが離れていくかもしれない。
なにを考えている、永田は自分を叱った。
エビーは命がけの仕事をしている、しかも時間がない、バカな男とつきあっている暇などないだけだ、と、自分を納得させた




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