新人類の少女

もう必要ない
次の日、エビーからのテレパシーは来ない。
永田は職安に行き、仕事探しをした。
何か音がするとテレパシーだと思ってしまう
もう、エビーからテレパシーはこないと思うと寂しさがこみ上げてくる。
「バカだなー」
永田は自分に言い聞かせる
家に帰った
「今日は元気がないねー、昨日は楽しいそうだったのに」
と、お母さん
「うん、なんかどん底」
「どうしたの」
「片思いの、一人合点の失恋」
「好きな娘がいるの」
「心配しないで、相手は人間じゃないから、失恋ともいえない」
「人間じゃないって、まさか、おまえ、動物に恋をしたの?」
「大丈夫、すぐ元気になるから」
ところが、夜、眠ろうとすると、思いがけずエビーからテレパシーが来た。
「今日は血を取られちゃった」
エビーが言う
「エビー」
永田は驚いた
「もうテレパシーはこないかと思った」
「どうして?」
「なんでもない」
「採血されたの?」
エビーの声を聞くだけで楽しい、エビーも気を使っているのだ。
「針を腕に刺して血を吸い取るの、人間ってすごいことするのね」
エビーは今日あったことをペラペラと喋る。永田も楽しそうに話した。
「じゃあ、今日も記録を書かなきゃならないからこれでね」
「わかった、じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
なんとなく寂しいが、エビーと話せたので満足して永田は眠った。


次の日、エビーが騒動を起こした、あの会社の人から電話があった、面接をやり直したいから来てくれと言う。
どうも彼は会社の中で空を飛ぶ人の話をしたらしく、異常者扱いされて困っているらしい。
行くと、打ち合わせコーナーに通された。
例の面接担当者ともう1人出てきた。
「今日はわざわざお出でいただいて有難うございます」
担当者が言う
「こちらは私どもの人事部長です」
もう1人の男は名刺を差し出した。
「上田と申します」
彼は椅子を進めた、3人向かい合って座った。
「さて」
と担当者
「今日、来ていただいたのは、先日の面接で、不思議なことがおきまして、それでですね
私がとりみだしまして、正しく面接できませんでしたので、もう一度面接をやり直したいと、まあ、こういったしだいです」
担当者はちらっと人事部長を見た、人事部長は渋い顔をしている。
「えー、不思議なこととはですね、窓から、空を飛ぶ女性が入ってきましたね、それをあなたも見ましたね」
担当者は念を押すように言う、永田にそうだと言って欲しいのだ。
「はい」
永田は答えた。
担当者の顔にほっとした表情が浮かんだ。
「それだけではなく、あなたはその女性と一緒に空を飛んで窓から出て行きましたね」
「はい」
永田は答えた。
担当者はうれしそうに人事部長を見る。しかし、人事部長の表情は変わらない。
「あの、部長、空を飛ぶ女性がいることは彼も証言しました」
と担当者
「君の仲間がもう1人いることは認める、でも、それだけだろう」
「あ、あー、そうですね、ちょっとお待ちを」
担当者は永田の方に身を乗り出した。
「あの女性、君の友達だろう、もう一度ここに来てもらうわけにはいかないかな、できれば」
窓の方を向いて
「こう、窓からとか、来てくれると嬉しいんだが」
永田は考えた、エビーが連絡してくれるか自信がない、昨日は連絡があったがもうないかもしれない。
でも、これだけエビーのために頑張ったんだ、僕のために少しは何かしてくれないだろうか。
「連絡してみます、ただ、最近彼女忙しくて」
「今、窓からとかは無理ですか」
と担当者
「今は無理です、まず、連絡をとってみます」
永田はちょっと考えて
「で、私の面接の結果はどうなんでしょうか?」
「面接の結果?」
担当者がキョトンとして言う
「私は採用していただけるんでしょうか?」
担当者にも意味がわかった、採用しなければ女性を連れてこないという意味だ。
「あー、そうだな」
部長の方を向いて
「あの、部長、空を飛ぶ女性が友達にいるような貴重な人材は、我が社の社員に適していると考えますがいかがでしょう」
部長はちょっと考えていたが、うなずいた、そんな女性がいるはずないと思ったのだ。
「採用するそうだ、連れてきたらだぞ」


その夜、永田はずっとエビーからのテレパシーを待った。しかし、深夜の2時を過ぎてもテレパシーは来なかった。
「俺、もう、必要ないもんな」
永田はつぶやいた。
あともう何回か、テレパシーがくるかもしれないが、所詮、永田は踏み台なのだ、医者に会えた今、踏み台に関心があるはずない
朝がきた、永田はいつの間にか眠っていた。
今日は5日目だ、エビーが発病するなら今日あたりだ、エビーだいじょうぶだろうか。

職安に行く準備をしていた、と、エビーからテレパシーがきた、多分、義理テレパシーだ。
「おはよう、起きてる?」
「おはよう、今日5日めだろう、大丈夫?」
永田はできるだけ気持ちを抑えて明るく話す。
「大丈夫みたい、このままいけるといいんだけど」
「ぜったい、うまくいくって」
「昨日はごめんね、テレパシーの整理に忙しくて連絡が遅くなったの、連絡したけど眠っていたみたい」
「そうなの」
そうだったのかもしれない。
永田はちょっと間をおいて
「あの、お願いがあるんだけど」
「なに?」
永田は面接担当者のことを話した、エビーは大わらいだ。
「いいよ、今から行くの?」
「待って、連絡してみる」
「ともかくそっちへ行くね、今日は1日ひまなの」
エビーが来ると言う、永田の気持ちは急にあかるくなった。
エビーのことがここまで気になるのか、まだ子供でしかも人間ですらないのに。
永田はドカッとすわった。
「俺はおかしいぞ」
永田は自分に言い聞かせる
「エビーはただの友達、ちょっと連絡がなかったら、この世の終わりみたいに落ち込んじゃって、なに考えてんだ、バカ」
自分の頭をぽかっと殴る
「よし、友達として普通につきあおう」




自作小説アクセス解析
自作小説お気軽リンク集
夢想花のブログ
私の定常宇宙論



inserted by FC2 system