新人類の少女

検査
それから数日たった。
エビーは元気だ、エビーの実験はうまくいっているみたいだ。
今日は大学病院へ結果を聞きに行く、エビーがさそってくれたので、永田もいっしょに行った、久しぶりにエビーといっしょだ。
大学病院の先生は戸部先生といった。
彼の研究室に杉浦先生と永田とエビーが集まった。
エビーは風邪を治す方法がわかると思って喜んでいる、しかし、戸部先生は、エビーを医学的に検査したにすぎなかった。
「検査の結果がでましたよ」
戸部先生が言う
「まず、遺伝子検査ですが、染色体の数は人間と同じですね、新種の人類というわけではないようです」
それから、戸部先生はレントゲン写真を照明装置に差し込んで説明を始めた。
どこかの臓器の形がちがうだとか、ここはもっと上だとか、細かく説明するが、3人にはまったくわからない。
「まあ、内臓関係は細かい違いはありますが、人間と同じと言っていいと思います」
戸部先生は資料を取り出した
「血液検査ですが、免疫細胞の数が異常に少ないですね、これが、病気に対する抵抗力がない原因かもしれません」
戸部先生は専門的なことをいろいろ説明した。
「さて、結論ですが」
「非常に長期間、まったく別の生活圏で生存してきたこと、超能力や病気に対する抵抗力の違いなどから
ヒトの亜種と考えていいのではと思います」
「別の人類ではなくて、亜種ですか?」
永田が聞く
「そう亜種です、亜種ほどの違いもないかもしれない、もちろんお互いが結婚すれば子供が出来ますよ」
なんだ、エビーと結婚しても大丈夫なのか、永田はなぜかうれしくなった。
「残念ながら、新人類発見ではありませんでした」
と、戸部先生
説明は終了した。
「結局、風邪を治す方法はわからないんですか」
エビーは悲しそうだ。
「いえ、まず、人間ですから、もちろん人間の薬が有効です。感染したウイルスによりますが、
抗ウイルス薬なんかが有効じゃないかと思います」
「それを飲めば風邪が治るんですか?」
「はっきりしたことは言えませんが、飲んでみる価値はあると思います」
エビーはとまどっている
「あのね、エビー、風邪を治す方法ははっきりしたものがないんだ」
永田が説明する
「たぶん、抗ウイルス薬は有効だと思いますよ」
戸部先生もエビーをなだめるように付け加えた。
丁寧にお礼を言って戸部先生の研究室を後にした。

そのあと大学の庭を杉浦先生と3人で歩いた。
「今日は何日目」
杉浦先生がエビーに聞く
「今日は8日目です」
「君の方法はうまくいっているみたいだね」
「そうみたいです」
エビーもうれしそうだ
「君のその方法は他の人もできるの」
「大丈夫です、練習すればできるようになります」
「そしたら、山奥に隠れている必要もなくなる訳だ」
杉浦先生はちょっと考えて
「その前に、君たちは自分たちの存在を人間に秘密にしたいの?」
「いいえ」
エビーはあっさりと言う
「それは君の意見、それとも全員の意志なの?」
エビーはだまっている
杉浦先生は続けた
「このままでいくと、君たちの存在は人間に知れ渡ってしまう、どこかで、正式な論文の発表なんかもしなきゃならないだろう。
でも、それでいいの?」
「いいです」
エビーは答えた
杉浦先生はエビーを見つめた
「君たちの意志決定の方法はどうなっているの」
「族長が決めるわ」
エビーはぶすっとして言う
「じゃあ、まず、その族長に相談したほうがいい」
エビーは何か考えて
「その必要はありません」
「なぜ」
「族長は頭が固いんです、絶対に反対します」
杉浦先生は立ち止まった。
「エビー、その族長の判断は間違っていない。過去に異民族同士の接触はかならず不幸な結果を生んだ、
戦争になったり、虐殺があったり、だから、もっと慎重にやるべきだ。
君の実験は実験でそれでいい、しかし、実験が終わったらみんなの所へ戻って族長の指示に従いなさい」
エビーは納得がいかない顔をしている。
「エビー、こんな大事な事を勝手に決めてはいけない、全員で話し合った方がいい」
エビーは下を向いている、どうしても納得がいかないようだ
「私たちのことは、私たちにまかせてください」
「君たちのことじゃなくて、君の事をいっているんだ」
杉浦先生はゆっくり言う
「君たちのことは、君が決めるんじゃなくて、君たちが決めるべきなんだ」
エビーはなにも言わない
「まあ、保留だな、私は聞かれたら本当の事を言うが、自分からは何も言わない、それでいいかな」
話はそれで終わりになった。
エビーはものすごく不機嫌になった、なだめるのが大変だった。


2人は永田の家に戻ると、例の会社から手紙が届いていた。
部長が同意しないので、採用はできないと書いてあった。
「やっぱりなー」
永田はため息をつく
「でも、超能力が本物なら採用する、と、言ったんでしょう」
エビーは怒っている。
「いきましょう、こんなの許せないわ」
「どこへ?」
「この会社へよ、怒鳴り込んでやる」
エビーの気の強さにちょっと驚く。
「もう、いいよ、なんか変な会社だったし」
「引っ込んだらだめよ」
肩がぐぐっと引き上げられる、エビーは前にも増して荒っぽく飛行を開始した。
「もういいよ、この会社に勤める気はないよ」
騒ぎになりそうなので、永田は止める
でもエビーは聞かない、エビーは永田のことより、自分の超能力を否定されたことに怒っているのだ。
会社へ着いた。
エビーはビルのまわりをゆっくりまわっている、そしてある場所で止まった。
「ここにあの部長がいるわ」
なにか探知能力があるのだ。
ガターン!!
目の前の窓が大きな音をたてて開いた、エビーがやったのだ
窓から中に入る、事務所内のみんながこちらを見ている。
2人は部長の前に降りた、エビーは毅然として立っている、永田はエビーの後ろに隠れるようにして立った。
「部長」
エビーがテレパシーで言う、テレパシーは事務所内の全員に聞こえているみたいだ。
「あなた、彼を採用すると約束したでしょう、それを破るんですか」
「私は、人間とは別の人類です、今、人間と交渉中です、もうすぐ人間と私たちと行き来が始まります。
そしたら、たくさんの仕事が発生します。しかし、この会社とは絶対取引しません。
この会社はみすみす大きな取引を逃したんです。それはあなたのせいですよ」
エビーは部長の目の前に指を突きつけた。
部長は
「ペテン超能力にだまされんぞ」
と小さな声でいう。
「おいで」
エビーがどすの効いた声でいう、エビーの顔は永田が見ても恐ろしい。
部長は宙に浮き上がった、窓から外にでると、急上昇と急降下を繰り替えした
永田と部長は悲鳴の連続だった、そして、元の部屋にもどった。
「これでもペテンと思う?」
エビーは永田を連れて浮き上がった。
そして窓から出ていった。
「どう、すっきりした?」
とエビー
「こわかったー、どうして僕までこんな目に会わなくちゃいけないの」




自作小説アクセス解析
自作小説お気軽リンク集
夢想花のブログ
私の定常宇宙論



inserted by FC2 system