新人類の少女

族長
次の日には、薬の準備ができた。
エビーは今頃は薬を持ってみんなの所へ行ってるだろうな、と思っていたら、エビーからテレパシーが来た
「私、族長から全然信用されてないの」
エビーは泣きそうだ
「族長が薬をだめだって」
「なぜ?」
「だから、私が信用されていないの」
「頭が固いな、何もしなければみんな死ぬんだろう」
「それがあのバカにはわからいの」
「君がそんな風に思っているから向こうもそうなるんだよ」
「私、族長は苦手なの、ねー、一緒に来てくれない」
エビーが頼む
永田はすぐにもいきたかった、でも昨日のことが頭に浮かんだ、
説得に行って、何にもできずにじっと立っている自分が目に浮かぶ。
「君がダメなのに、よそ者の僕なんか何の役にもたたないと思うよ」
「永田さんの事を族長は知っているわ、私が連絡していた友達が、私の記録を族長に見せたの」
「でも、僕はよそ者だよ」
「それが、族長は永田さんの事を気に入ってるらしいの、友達が言っていた」
「君、僕の事をどう書いたの」
「説得を手伝って」
永田はしくじるのが怖かった、でも自分を奮い立たせる。
「わかった」
永田は怒鳴るように言った

しばらく待っていると、エビーが迎えに来た
「でも、僕が行っても会えないだろう、人間の近くは危険じゃないの?」
「外で、風下にいれば大丈夫よ」
2人は飛び出した。
どんどん山奥へ向かっていく
そして、ちょっとした山の頂上に降り立った、頂上は平らで周囲に木がなく周囲が360度見渡せた。
冷たい風邪が吹いていて、鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。

エビーがテレパシーで連絡をとっている
「族長が来るって」
ちょっと緊張である。
エビーが見ている方を見ると誰か飛んでくる、彼は上空を一周するとゆっくりと風上に降りた。
ほっそりとした老人である、鼻が大きく飛び出していてグロテスクに見えた
「族長です、族長、こちらが永田さん」
エビーがテレパシーで紹介する
「君が永田君か、君の事はエビーの報告で知っとるよ」
「永田です、よろしくお願いします」
族長が近づいてきた。
「なかなか好青年じゃの」
「はあ」
永田はおせいじ笑いをする
「君はたいそう義理堅いそうじゃな」
「えっ、は、はい」
「よいか、人の間には秩序が大事じゃ、秩序が壊れると人はばらばらになってしまう」
「はい、そう思います」
永田が言うと、族長はうれしそうだ
「しかし、秩序を守らせるのは難しい、ほおっておくとすぐに壊す者がでてくる」
族長はちらっとエビーを見た
「あの娘のようにな」
族長は続けた
「ここはな、昔は200人くらいおったんじゃ、それがな、逃げだす者がいてな、今では100人じゃ」
「そんなに」
派閥の対立でもあったんだろうか
「部族を捨てて逃げる者をどう思う」
「多少の相違は妥協すべきだと思います、人の社会はそうしたものです」
永田が答えると
「そうじゃろう、そう思うじゃろう」
族長は自分で納得するように言った。
突然声が大きくなった。
「病気が出たら、みんな逃げた、ばたばたとな、逃げても無駄じゃと言うのに」
族長は手を振り上げた
「残ったのは50人じゃ、年寄りばかりじゃ、たった50人じゃぞ」
この人は疲れてると永田は思った、人望がないのだ、人望がないから彼の元を去る人が後を断たない、
彼は、みんなが自分を捨てて出て行くことが耐えられないのだ、
族長は永田を見た
「わしは何度も経験した、この病気がでたらもうだめなんじゃ、絶対に死ぬ、助かったという話を聞いたことがない」
何がこの人をこんなに頑なにしているんだろう、たぶん、自分を認めて欲しいのだ。
永田は話を合わせた。
「病気がでたらみんな逃げたんですか?」
「ああ、もう、一目散じゃ、早かった、残ったのは年寄りばかりじゃ」
「逃げたのは、すぐですか?」
「すぐもすぐ、その日のうちに逃げおった」
「それでも助からないんですか?」
「助からん、手遅れなんじゃ」
「戻ってきた人はいるんですか」
族長は怒ったように永田を見つめた
「おるもんか、1人もおらん」
永田はエビーをみた
「エビーは?」
「エビー?」
族長はエビーの方へ振り返った
「エビー、そうか、エビー、なぜ戻ってきた」
族長はエビーに手を伸ばした
「君は病気が出たときにいなかった、君は助かったのに、戻ってこなければ助かるのに」
「エビーはこの部族の一員なんです、部族の一大事と聞いて戻ってきたんです」
永田が言った
「エビー本当なのか、ここへ戻ってきたら死ぬんじゃぞ、一歩中へ入ったら終わりじゃぞ」
「薬を持ってきました」
エビーが言うと、族長の顔が急に険しくなった
「まだ、そんなことを言っとるのか、薬のことは忘れろ、人間も風邪を治す薬は持っておらんのだ」
「族長、みんなが逃げたのにエビーは戻ってきました。エビーは部族の一大事だから戻ってきたんです。
エビーは部族のために必死になってこの薬を手に入れたんです。
そして、その大事な薬をあなたの所へ持ってきました、それは、あなたを頼りにしているからです」
族長はだまっている
「確かに族長のおっしゃる通り、人間も風邪を確実に治す薬はもっていません、でも、風邪に効く薬はもっています、
この薬を使えば1人でも2人でも助かるかもしれません、試してみませんか」
族長はしばらく下を向いていた。
「エビー、その薬は人間にもらったのか?」
「はい」
「人間はその薬が効くと言っているのか?」
「はい、・・いや、効くかもしれない、と言っています」
族長は少し間をおいて
「だめだ」
エビーは必死だ
「試してみる価値はあると、言っています」
族長はゆっくり上を向いた
「この病気は助からんのだ、昔から、その昔の昔から、助からんのだ、助かるはずがない、助かってはいけないのだ、
それを助ける、・・・好きにしなさい」
族長は後ろを向くとふわっと浮き上がって戻っていった。
族長は薬を使うことを認めてくれた。
エビーはほっとして
「ありがとう、私1人じゃ絶対無理だった」
「かわいそうな人だね、でも悪い人じゃないよ」
「そうかなー」




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