新人類の少女


「ここにいてくれる」
そう言うと、エビーは族長がきた方向に向かって飛んで行った。
永田は1人で待つことにした、エビーは部族に戻って薬を配るつもりなのだろう。
ここは、すばらしい見晴らしだ、あの部族にとってここは特別の場所なんだろう。
「こんにちは」
ぼんやりしているとテレパシーが着た
「えっ」
振り返ると、中年の男女が立っていた。
「永田くんだね」
「はい」
「始めまして、私はエビーの父親です、ジェルダといいます」
横の女性をみて
「こっちは妻のビエルです」
エビーの両親だ、永田は緊張した。
「永田です」
「君のことはエビーから聞いているよ、どんな人だろうと思っていたんだ」
「エビーさんはしっかりした方ですね」
永田は言った
ジェルダは笑った
「とんでもない、わがままで困った娘です。
それに、娘が薬の飲み過ぎて危ないところ助けていただいて、感謝しています」
2人は永田から数メートルの所にいる
「あまり近いと危ないんじゃないですか?」
永田が心配して聞く
「いえ、風が吹いていますから大丈夫です。それにもう用心しても意味がない」
風邪のことだ、もう助からないと思っているのだ。
「薬は飲みました?」
「ええ、娘からもらいました」
「あの娘が、エビーが、薬を持ってきてくれました」
ビエルは涙ぐんでいる
ジェルダは永田を見た
「この薬はどの程度効くのでしょうか?」
永田は困った、悲観的なことを言うのは辛かった。
「医者が言った言葉ですが、試してみる価値はある、程度だそうです」
「そうですか」
しばらく沈黙があった
「やはり、会いに来てよかった、生きているうちに、君に会っておかなければ、と思ってね。
やさしそうで、しっかりした人でよかった、これで安心です」
永田は意味をとりかねた。
「エビーから人間、と聞いた時はビックリしましたが、これで安心です」
ビエルが言う。
エビーが何を言ったのか、知りたいと思った。
「エビーはまだ子供です、もう少し年をとれば分別もでてくると思います、それまで、大目にみてやってください」
まるでエビーを頼まれているような感じだ。しかし、死ぬ人から何かを頼まれたら断れない。
「わかりました」
意味がよくわからないまま答えた。
「よかった、これで安心です」
ジェルダは妻の肩に手を回した
「さて、エビーが忙しそうだ、戻って手伝わなきゃ」
永田に
「では、これで失礼します」
「失礼します」
永田は頭を下げた。
2人は浮き上がると、しばらくそこに浮かんでいたが、ゆっくりの先ほどの方向へ戻っていった。

今の言葉はなんだったんだろう。
エビーは自分の親に何を言ったんだろう。
今まで、エビーは永田を踏み台としか思っていない、と思っていた。
エビーが気を使うのは、彼女が危ない所を彼が助けたからだ、と。でも、違うのか。
永田は今まで、エビーが自分を好きかもしれないとは考えたことがなかった。

エビーが戻ってきたのは夕方ごろだった。
「ごめん、ほったらかしで、すっごく忙しかったの」
「わかってるよ、ここで景色を見ていた、ここはすごくいいところだね」
「ともかく、家まで送るね、私はすぐ戻るけど」
「わかった」
エビーに何か聞いてみようと思ったが、何を聞いていいのか、うまく言えそうにない。
なにも聞かずに家まできた。
エビーはすぐに戻っていった。

次の日から現地は大変になった。
族長が承諾したので、戸部先生と数人の医療関係者が防護服を着て住居の中に入って患者の治療を開始した。
エビーは人や機材を忙しく運んでいるという。
日がたつにつれて発病者が増え、エビーの両親も発病したらしい。
このころになると、ヘリコプターが導入され大々的な救助活動が開始された。
テレビや新聞が「未知の部族、日本の山奥で発見か」などと騒ぎ出した。
5日目くらいになるとほぼ全員が発病し、死者も出始めた。
エビーは永田に細かく状況を知らせてきていた。
永田は手伝えることがなく、自分の家にいた。




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