新人類の少女

ベリク
「族長が永田さんに会いたいと言ってるんだけど、こっちへ来れる?」
エビーからテレパシーが着た。
「えっ、族長が、何だろう、もちろんいいよ」
「族長、かなりひどいの、何かをあなたに伝えておきたいみたい」
「僕に?」
なんだろう
「迎えに行くから」
しばらくして、エビーがやって来た。
エビーはやつれている、ほとんど休んでいないのだろう。
エビーに連れられて現地へ行った。
例の山の頂上は機材の集積基地になっていて自衛隊のヘリコプターが離陸しようとしている。
上空には取材のヘリコプターが飛んでいて。騒然とした雰囲気だ。
エビーは谷間の方へ降りていく、途中で自衛隊のヘリコプターのすぐ横を飛んだ。
谷間には大型のテントがいくつか建ててあった、エビーはテントから少し離れた所におりた。
「あそこが私たちの住居の入り口」
エビーが指差した方をみると、ほらあな程度の穴があった。
「入り口は小さいけど、中はものすごく広いのよ」
エビーはテントの方を見て
「重症化した人はそこに運ぶの、穴の中じゃ機材が入らないんだって」
「族長に話してみる」
エビーはしばらく下を向いていた、テレパシーで族長を呼び出しているのだ。
「族長は眠っているみたい、悪いけど、ここで待ってくれる、族長が起きたら呼びにくるから」
エビーは忙しいのだ、すぐに行ってしまった。
永田は少し歩いてみた
白いテントが4張りほど建ててある、あたりは元はヤブだったんだろうが、今は人が踏み荒らして細い道ができている。
穴の方にいってみた、人間がかがんで入るくらいの大きさだ、横に大きな岩がある、エビーの時と同じであの岩でふたをするのだろう。
上空には取材のヘリコプターが飛んでいて騒々しい、病人がいるのに。
機材を担いでテントの方へ行く人たちが見えた。みんな忙しそうに働いている
しばらくするとエビーがやってきた
「族長が目をさましたわ、きて」
エビーについてテントの近くに行った。
そこにいた人から白い布やらかぶる物を渡された、感染防止のためだ
テントの中に入る
中はベットが4つ置いてあって、透明な三角の覆いがベットを被っている、病人はその覆いの中で寝ていた。
たぶんこの覆いの中は無菌状態にしてあるのだろう。
一番手前のベットに族長が横になっていた。
「族長、つれてきました」
「おー、よくきたの」
彼はかなりひどそうだ。族長はエビーに向かってかすかに手を上げた
「エビーはいい娘じゃ、こんなにもいい娘じゃったとは、わしはお前のことを勘違いしておった」
彼は苦しそうに息をする
「この部族は全滅する、エビーを除いてな、エビーお前は生き残る、お前が生き残れば部族の血は残る
1万年も続いてきた部族じゃ、ここで途絶えてはならん、絶対にならん、頼むエビー」
「はい、大丈夫です」
エビーは答えた
族長は永田をみた
「永田くん、たのみたい事がある」
彼は綺麗な装飾が施された板を取り出した。
「これが何かわかるか」
「いえ」
「これは、ベリクといってな、代々引き継いできた物じゃ、1万年も前からな、この部族で生まれた者と、死んだ者の名前が書いてある」
族長のベリクを持った手が震えた
「これは族長が持つものじゃ、族長が生まれた者、死んだ者の名前を書く」
「これを絶やしたくない」
「君たちがこれを引き継いでくれないか、エビーの血はつながっておる、だから、君たちが代々引き継いでくれればベリクは継ながる」
族長の目に涙が浮かんだ。
あまりに責任重大な申し出に永田は混乱した
「まだ、全員死ぬと決まった分けではありません、生き残る人がいるかもしれません」
「無理じゃ、まずだめじゃろう」
「でも、生き残った人がいたら、私が引き継ぐと変です」
「その時は、その者に渡してくれ」
族長はひどい咳をした
「部族が絶えるのは致し方ない、しかし、ベリクだけは絶やしたくない」
族長は弱った目で永田を見つめる
エビーがそっと永田の手を握った、引き受けてくれと言っているのだ。
死にかかっている人の頼みを断れない。
「わかりました、引き受けます」
永田は答えた
「これを渡す」
族長は弱々しく永田の手にベリクを押し込んだ。
「エビーがいるから血は途絶えてない、これでベリクはつながる」
族長はほっとしたのかぐったりとなった。
永田にもこのベリクの重要性が理解できた。
「わかりました、これを守ります」
族長はうすく目をあけた
「たのんだぞ」
「わかりました」
永田が答える
「わかりました」
エビーも答えた


2人はテントから出た。
永田はなにも言わずに歩いた、エビーはあとからついてくる。
永田は混乱していた、このままいけばエビーを自分のものにできる、族長の最後の頼みならエビーはことわらないだろう。
しかし、それは絶対にしたくなかった。
エビーが好きなら自分でそう言うべきだ。
それより、なにより、エビーの気持ちが知りたい。
いつもなら、好きな女性に気持ちを聞くなどできない性格だったが、いま、聞かなければ、聞く機会は永久になくなってしまう。
「エビー」
永田はエビーの手をとった
「今の話に無関係に答えてくれ」
エビーをじっと見る
「もし、俺がきらいなら、はっきりそう言ってくれ」
「ベリクは君が結婚した人に引き継げばいいだけの話だ」
エビーはじっと永田を見ている
「僕は君が好きだ、最初に会ったときから好きだった」
「俺と付き合ってくれないか」
やっと言葉がでてきた
エビーは伏せ目がちにコクンとうなづいた
永田は興奮で足が震えた
「エビー、俺でいいのか」
永田は念をおす
「すきです」
エビーが言う
「エビー」
「うん」
エビーはニコッとわらう
「よかった」
永田は走り出した。
走って走ってどこまでも走った。
走り疲れて立ち止まると、エビーがついてきていた。
「エビー、すきだ」
永田はエビーを抱きしめた。
2人は草の上にすわった。
ふと思い出してベリクを取り出した。
ツルツルに光っていて、磨り減ってまるみをおびている。
金の装飾が掘り込んであった。
「これは、どうやって記録されているの」
永田が聞く
「テレパシーが中に溜まるようになっているの」
「本当に1万年前からの記録が書いてあるの」
「読んでみる」
エビーは目をつむってじっとしている。
「すごい数の名前が書いてある」
エビーはじっとしたままだ
「昔のテレパシーは弱くなっていて読みにくい」
エビーは目を上げた
「昔の方はほとんど読めない、どこが先頭か区別できないわ」
「どのくらい前?」
「これには火星と木星と土星の位置が一緒に書いてある、だから、火星、木星、土星の位置をしらべればいつ書かれたのかわかるわ」
永田はベルクを手に取った、これがはるか昔から伝わって来たのだ、永田は感動を覚えた。





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