俺の王妃は侵略者

侵略者
 宇宙船の中は宇宙船らしくなかった。落ち着いた感じのデザインで花が飾ってあり、大きなお屋敷のような感じの所だった。広間があって映画にでてくるような緩やかにカーブした階段がある。セリーヌはその階段を登って行く。階段の先も通路のような広間があってセリーヌはその先の部屋に入っていく。
「ここが主室よ。ここに住みましょ」
 そこは豪華な部屋で奥の方にはさらにたくさんの部屋があるようだった。正面には大きな窓があり、河原が見えている。窓の所に行くと、人々が驚いてこちらを見上げているのが見えた。
 たくさんある部屋の一つにセリーヌが入って行く。そこは広い部屋で、これまた巨大なベットがある。
「ここが寝室よ」
 彼女はうれしそうにベットをたたいている。
 まさか、ここで彼女と一緒に寝るのか? さっきの話が本当の事なら、当然そうなる。こんな美人と本当に結婚するのか……
「この寝室は私が使っていたんだけど、ここが一番いい部屋だから、ここがあなたの部屋ね。私はあっちで寝るわ」
 彼女は別の部屋に歩いて行く。彼女の後についていくと、そこにはもう一つ寝室があった。
 ちょっとがっかりだった。まあ、仕方がない、こんな美人と一緒に寝るだなんてそんな事がそう簡単に起きるわけがない。
 その部屋は確かにさっきの寝室に比べるとずいぶんと小さい。それでも賢治のアパートの部屋全体より広かった。
「あたしの持ち物はこの部屋に運ぶわね。だから、あなたの荷物はあの部屋に入れたらいいわ」
 彼女は新しい住まいの区分けを手際よく決めていく。
 一通り部屋を見せ終わると彼女は自慢げに手を広げてクルッと回った。
「どう、ここならいいでしょう」
「ああ……」
 何とも答えようがなかった。彼女は本物の宇宙人で、これからこの宇宙船で彼女と一緒に生活する事になるのか。
「ここは地球の占領が終わって、宮殿を作るまでの仮の住まいよ」
 地球の占領! 恐ろしい言葉が健二の頭をぶん殴った。
「地球を侵略するんですか?」
「もちろんよ」
 セリーヌは当然のように答える。さっきの話は本当の事だったのだから、当然そうなる。つまり、ついに、地球が宇宙人に侵略される時がきたのだ。
「侵略なんて……」
 健二はあせってしまった。
「侵略なんかやめて下さい」
「何言ってるの、さっき説明したじゃない」
「あれは、ドッキリだと思っていたんです」
「ドッキリ?」
 セリーヌが眉をしかめる。
「つまり、テレビ番組の一種で、人をだまして楽しむ番組です。だから、さっきの話はうそだと思っていたんです」
「さっき、その事を言っていたのね」
 セリーヌが冷たい目で睨む。
「でも、本当の事よ。ドッキリなんかじゃないわ。地球を侵略して征服します。もう決まったことだからどうしようもないの」
「そんなむちゃくちゃな。お願いです、地球を侵略しないでください」
 健二はセリーヌに手を合わせた。しかし、セリーヌはそんな健二を無視して窓の方に歩いていく。
「それは、もう、どうしようもないわね。皇帝が決めたことだから取り止めるなんてことは有り得ないわ」
「でも、地球は地球人の星です。これを奪うなんて良くないですよ」
「それは違うわ。奪うわけじゃなくて支配するだけよ」
「同じことでしょう」
 健二は声を荒げたが、セリーヌは窓から下を見ている。
「アマンゴラ帝国は今までにもたくさんの星を征服し従えてきたわ。地球もアマンゴラ連邦の一員になるのよ。でも、それは、むしろいい事だと思うわ」
「いいこと? 征服されるのにですか」
「でも、征服されても何も困らないでしょ、多少、プライドが傷つく程度よ」
「そんなバカな、征服されるんですよ」
 健二が怒鳴るように言うと、セリーヌは眉をしかめた。
「征服されたらどうなると思っているの?」
「どうなるって…… 地球人は奴隷にされるとか」
「まさか、そんなひどいことはしないわ。普段の生活は今までと何も変わらないと思っていい。むしろ、アマンゴらの進んだ科学技術が入ってくるから、生活は今までより良くなる方だと思う。ただ、アマンゴらの支配を受けるだけよ」
「でも、地球の富は全部吸い上げられるんでしょ」
「そんな事しないわ。地球から何も奪い取らない。略奪なんてやらないわ」
「でも、でも、それじゃあ、アマンゴラに何の得があるんですか?」
「アマンゴラの目的は勢力圏の拡大なの。地球をアマンゴラ連邦の一員にして連邦を強大なものにする。それが目的よ」
 なるほど、と思ってしまった。そういう事なら少しは安心できる。だが、しかし、まだ、疑問がある。
「連邦の一員になると、つまり、アマンゴラの支配を受けると地球はどうなるんです?」
「だから、さっきから言っているでしょう。あなたが地球の王になって地球を支配するの。ただし、あなたはアマンゴラの傀儡で皇帝の指示どおりにするの。わかった」
 健二はポカンとしてしまった。なるほど、これで、さっきからの話とつじつまが合う訳だ。いや、しかし、こんな事で納得してはいけない。
「でも、でも、でも、それで、無理難題を押し付けられるってことはないんですか?」
 結局、略奪されることになってしまうのかもしれない。
「そこは、あなたの腕しだいよ。皇帝のご機嫌をとって、ひどい事を言いつけらないようにしなくちゃ」
 健二はあせってしまった。宇宙人の地球侵略の計画の中に自分が組み込まれている。自分がうまくやらないと地球がひどいことになってしまう。そんなバカな。
「いや、いや、それは、ちょっと…… その… なんで、俺が国王に選ばれたんです?」
 当然の疑問だった。なんで、こんな俺なんかをそんな大事な役割に選んだのだ。
 しかし、急にセリーヌの顔が曇った。健二から目をそらし、つまらなさそうに宙を見つめている。
「知らないわ…… ノラヌダニが選んだんだけど、地球を支配するってそれなりに能力がいるから、かなりの知性があって、且つ、あまり野心を持たない人から選んだと思う」
 セリーヌは、健二ではまったく期待はずれだった、と言わんばかりの顔をしている。彼女が結婚相手として健二が不満なのは隠しようがなかった。
 しかも、なぜか、そんなセリーヌに同情してしまう。そう、確かに無茶苦茶な話だ。さっき会ったばかりなのに、それでもう結婚が決まっているなんて絶対におかしい。
「あのう…… 俺と本当に結婚するつもりですか?」
「もちろん、するわよ」
 はっきり答えないだろうとの予測を簡単に裏切って、彼女はあっさり答えた。
「でも、好きでもないのに」
「そういう結婚もあると思うわ」
「でも、さっき会ったばかりですよ。いきなり引き合わされて、猫の子でももらうように、はい、てのはおかしいと思いませんか?」
 セリーヌは健二から目をそらすと窓の下を見た。下にはパトカーが何台も来ていて大騒ぎになっている。
「地球という星がまるごと一つ自分の領地になるというのはものすごい事なの。貴族といったってわずかばかりの領地しか持っていない。それが、地球王の王妃になれば地球がまるごと領地になるわ。わからないかもしれないけど、これってものすごく魅力的な事なのよ。貧乏だけど好きな人との結婚もいいけど、広大な領地付きの政略結婚も悪くはないわ」
 驚きだった。領地目当てだったのだ。この人は領地欲しさに誰とでも結婚するつもりなんだ。
「でも、そんな結婚、それで、本当の夫婦になんかなれませんよ?」
 セリーヌはぐっと顔を上げると、健二を睨みつける。
「そうね、あなたの言う通りかもしれない。でも、それで何が問題なの。書類上結婚しさえすればそれで夫婦よ。本当の夫婦になんかなる必要はないわ」
 セリーヌはあっさりと言ってのけた。
 セリーヌにとって夫は誰でもいいのだ。ただ制度上、夫が必要なだけで、それだけの事だ。たぶん、夫婦になるつもりもないんだろう。
「あなただって、地球が手に入るのよ。私と結婚すれば地球が私たちの領地になる。これで、何か問題がある?」
「いや……」
 セリーヌの気持ちが痛いほどわかった。彼女は健二と実際の結婚などするとつもりはないのだ。
 彼女は自分の気持ちを整理するように健二をしばらく睨みつけていたが、急に笑顔になった。
「荷物を運び込む?」
 いきなり聞く。
「荷物?」
「あなたのアパートにある荷物よ。ここに住むのなら、ここにあった方が便利でしょ」
「ああ……」





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