俺の王妃は侵略者

専属のロボット
 宇宙船は地球のまわりを回っていた。まどからは地球が見えているが地球で何が起こっているのかまったく分からない。
 きのう、この宇宙船が地球人に姿を見せたが、あの騒ぎは今はどうなっているんだろう。テレビでもあれば様子がわかるのだが。
 携帯がここから通じるのだから、ここで地球のテレビが見えないだろうか。
 そう思って、健二はセリーヌの部屋に行った。
 セリーヌは机にすわって懸命に書類を作成している。地球の占領のための準備が忙しいらしい。
「セリーヌ」
 声をかけると彼女が振り向いた。
「テレビ、見れないかな」
「ナランダに言って」
 セリーヌは面倒くさそうにそう言うと、また、机に向かった。
 そう、確かに、ロボットに命令すればよかったのだ。でも、ナランダは常にセリーヌのそばに待機しているから、セリーヌに声をかけざるを得ない。
 セリーヌは何を思ったのか顔をあげた。
「そうね、健二さん専用のロボットがいるわね」
 彼女は立ち上がってきた。
「ナランダ。ロボットを一台、健二さんに準備してあげて」
「承知いたしました」
 ナランダが頭を下げる。
 驚きだった。自分もナランダみたいなロボットを持てるのだ。これからは便利になる。
「で、どちらの命令が優先でしょうか?」
 ナランダが意味不明の質問をする。セリーヌは少し考えていたが。
「健二さんの命令」
 と答えて、にっこりと健二を見る。
「何のこと?」
「ロボットに命令できる人間が複数いるときは、優先順位を決めておくの、でないと、命令が相互に矛盾した時にロボットが困ってしまうでしょ」
 なんとなく意味がわかった。セリーヌと健二とがそれぞれが逆の事をロボットに命令した時、どちらの命令に従うかをあらかじめ決めておくのだろう。ちょうど、直進と右折とどちらが優先かを決めておかないと車がぶつかってしまうのと同じようなものだ。しかし、それでは自分の方が優先なのはおかしい。
「いや、それは君の方がいいよ」
 セリーヌを差し置いて自分の方が優先だなんてありえない、健二はセリーヌに捕まっているも同然なのに。
「どうして、あなたは国王なのよ。私が優先じゃおかしいわ」
「しかし……」
 セリーヌは気前が良すぎる。それでは囚人に牢屋の鍵を渡すようなものではないか。
「さあ、行って。あたしは忙しいんだから」
 セリーヌは健二とナランダをぐいと押した。
 セリーヌは馬鹿正直と言えるくらい道理を重んじる人なのだ。すべての事に筋を通そうとしている。彼女は心底いい人なのかもしれない。
「こちらです」
 ナランダが歩き出したので、仕方なく健二はナランダの後に続いた。
 セリーヌは軽く手を振ると、また仕事を始めた。

 倉庫のような所に入った。呼び出されてロボットが集まってきた。数十台はいる。
「どれがよろしいでしょうか?」
 ナランダが聞く。
 ロボットは男性型、女性型、若いの、年をとったの、いろいろあった。
 平穏な容姿のロボットが多い中、一台だけ特別にかわいいロボットがいた。金髪で目がくりっとしたお茶目な顔をしている。明るい服を着ていてなんと超ミニスカートだ。
 あまりに派手な服装に少し気が引けたが、彼女以外のロボットはどれも地味だ。無味無臭といった感じで、そばにいても気にならないようになっている。いかし彼女だけは一際輝いていた。
 かなり迷った。やはりセリーヌの目が気になった。しかし、やっぱりかわいいロボットがいい。
「この娘にするよ」
 健二はそのロボットを選んだが、ナランダがちょっと驚いた顔をした。やはり、ちょっと非常識なのかもしれない。
「まずいかな……」
「いえ、かまいません……」
 人間を批判してはいけないと思ったのかもしれない。ナランダは何事もなかったかのようにそのロボットを呼び寄せた。
「セシルと申します」
 彼女はかわいい顔なのに無表情で頭を下げた。少しがっかりだった。少しは感情のある顔をするかと思ったのだ。
「セシルでよろしいですね」
 ナランダが念を押す。
「もちろん」
「少々お待ちを」
 ナランダがじっとして何かをしている。
「完了いたしました。ただいま、セシルに全機器へのアクセス権を与えました。これでセシルに命令すればすべての事が出来るようになります」
「なるほど」
 全機器と言うのが何だかわからないが、まさかこの宇宙船まで動かせるわけではないだろう。しかし、これで、いちいちセリーヌに頼まなくてもよくなる。
「地球のテレビが見たいんだ。なんとかなるかな」
「承知しました」
 彼女はまた無表情で頭を下げた。

 結局、宇宙船の中にも立体テレビがあって、これで地球のテレビ放送を見ることができた。健二の部屋にあった絵画と思っていたのが実はテレビで、セシルが操作するとテレビが写り始めた。
 ニュースをやっていた。巨大な宇宙船が数百機、地球の周囲にいると大騒ぎしていた。望遠鏡で撮影した映像が流れていて、宇宙船の形がはっきりとわかる。宇宙ステーションからの映像もあって、宇宙ステーションのすぐ横を通り過ぎていく巨大な宇宙船が写っている。
 もう、そんなに宇宙船が地球に来ているなんて知らなかった。さっきの会議では、地球に降伏勧告をするのはまだまだ先のはずだなんだが……
 侵略側の宇宙人と親しいのだが、それでもこんな映像を見せられると背筋が寒くなった。





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