俺の王妃は侵略者

謁見
 宮殿の謁見の間にセリーヌと二人で立っていた。
 巨大な宮殿だった。広大な庭があって、綺麗な建物がたくさん建っている。中央に一際巨大な宮殿が建っていて、謁見の間はその中にあった。
 謁見の間は天井が高く大きな窓からは明るい日差しが差し込んでいて赤い絨毯が目にまぶしかった。
 セリーヌは大きく広がったスカートに胸元が大きく開いた民族衣装を着ている。健二のアマンゴラの民族衣装もなかなか似合っていた。
「もうすぐお見えになります」
 世話係のロボットが教えてくれる。
 さあ、いよいよ皇帝と会うのだ。足が震えるほど緊張してしまう。
「心配しなくて大丈夫よ、あたしがうまくやるから」
 セリーヌはまるで平気だ。この女性の神経はどうなってるんだろう。
「ヘマやったら、頼むよ」
「まかせといて」
 セリーヌが手を握ってくれる。
 セリーヌのこの自信はどこから来ているのだろう、皇帝に会うのに彼女はまったく緊張していない。むしろ嬉しそうにしている。
 健二は挨拶の練習をしてみた、さっきいろいろと教わったのだ。
「民族が違うんだから礼儀が違うことは皇帝も充分にご存知よ、あまり堅苦しく考えなくていいわ」
 セリーヌが安心させてくれる。でも、なぜ、そんな事が言える。皇帝の気持ちなんかわかる訳ないのに。
「お見えです」
 ロボットが号令をかけた。
 健二は練習の通りに、頭を下げ右手を胸の前にあてる姿勢をとった。横のセリーヌは足を曲げ体を少し下げている。
 正面から一人の男が入ってきた。かなりお腹が出ていて穏やかな顔をしている。
「おお、セリーヌ」
 彼は健二など見向きもせずにセリーヌの方に歩いていく。
「ご機嫌うるわしゅうございます」
 セリーヌが丁寧に頭を下げる。
「どうだね、地球侵略はうまくいってるかね」
「はい、順調です」
「それはよかった。君のことだ、うまくやるだろ」
 皇帝はにこやかにセリーヌと話している。
 そんなセリーヌを健二はぼうぜんとして見ていた。皇帝と親しいのか……
 これだけ皇帝と親しければムラキ将軍などものの数ではない。あの時、皇帝に直訴すると言っていたが、あれは嘘で、直訴などしなくても普通に会える。昨日、皇帝から呼び出しが来たのもセリーヌに会うためだったのだ。
 二人はしばらく話していたが、健二が無視されているのを気にしたのか、セリーヌが健二の方に手を差し出した。
「陛下、こちらが地球王に推薦されております、永井さまです」
「おお、君がそうかね」
 やっと皇帝は健二の存在に気がついた。
「永井です」
 健二は教わったばかりの作法でコチコチなりながら頭を下げた。
「どうかね、自分の星を侵略されるのは辛いだろうね」
 意外な事を聞かれる。
「はい…」
「しかし、長い目で見ればこの方がいいのだよ」
「…… まだ、納得できないでいます」
 たまらず本心を言ってしまった。
「そうだろうな、まあ、時間が解決するだろう。地球を悪いようにはしない」
 皇帝は思いのほか優しい言葉をかけてくれる。
「どうかね、セリーヌとうまくいっておるかね」
 セリーヌは領地が目当てなんだという事が頭に浮かんだが、しかし、そんな事は言えない。
「はい、素敵な女性で感激しております」
「正直、君が羨ましいよ。わしもセリーヌに側室にと申し入れた事があるのだが、見事に断られた」
 セリーヌが断った! ちょっと意外だった。彼女は愛がある結婚より権力の方を選ぶと思っていたのに。
「セリーヌは優秀な娘でな、ほとほと感服させられる」
「はい」
「美人だし、頭はいいし、言うことなしだ。まあ、彼女に任せておけば間違いない」
「はい」
 皇帝はセリーヌを褒めちぎる。しかし、反論するわけにもいかない。
「ただし、問題もある。ちと勝気すぎる。尻にしかれんようにな」
「陛下!!」
 セリーヌが怖い声を出した。
「私は、そのような事はしません」
「おお、怖い怖い」
 皇帝はセリーヌを怖がってみせる。
「セリーヌ、そなたは男まさりの所がある。良い事でもあるが悪い点でもある。心するように」
「はい」
 さすがのセリーヌも皇帝の前ではじつに素直だ。
「陛下、お願いがあります」
 ふいにセリーヌが真剣な顔で切り出した。
「なんだね?」
 皇帝はあくまで穏やかに聞き返す。
「地球の降伏までの猶予期間が百日は必要です。作戦計画には二週間の案と二案併記してありますが、どうか、百日の案で決済をお願いします」
 例のムラキ将軍と対立した降伏までの猶予期間だ。セリーヌが皇帝にお願いしてくれているのだ。しかし、皇帝はじっとセリーヌの顔を見ている。
「将軍と意見が対立しているのかね?」
「そうです。地球は私たちと政治の仕組みが違います。だから、物事を決めるのに時間がかかるんです。二週間では地球が意思決定する前に戦争になってしまします」
「ほう」
 皇帝は考えるように下を向くと、ゆっくりと健二を見た。
「君の意見は?」
「私からもお願いします。二週間では、地球が何も決められないまま侵略を受ける事になります。降伏するにしろ、戦うにしろ地球が自分で意思決定すべきだと思います」
 二度とない機会だ。地球の運命が自分にかかっている。健二は必死で訴えた。
 皇帝は健二の顔を見ながら考えている。
「なるほど、君たちの意見はわかった。後は将軍の違憲も聞いてみよう。決めるのはそれからだ」
 セリーヌが嬉しそうに頭を下げた。
 それからもしばらく皇帝との話が続いた。皇帝はいろいろ話してくれたが、なかなかの人格者だった。
 やがて皇帝との会話も一区切りついた。
「皇帝陛下がご退席されます」
 世話係のロボットが号令をかける。
 健二とセリーヌは例の挨拶の体制をとった。その前を皇帝は悠々と引き上げて行った。

 セリーヌと控え室に戻ってきた。
 しかし、セリーヌが近寄りがたく感じた。銀河系を支配する皇帝とあそこまで親しいのだ。健二の会社のような小さな会社でも廊下で社長とすれ違うと緊張するのに、今、目の前にアマンゴラ帝国でかなりの力を持った人がいる。
「さあ、かえりましょ」
 セリーヌが笑顔で言う。
「はい」
 健二は普通に答えたつもりだったが声が卑屈になっていた。サラリーマンは本能的に偉い人の前にくると低姿勢になってしまう。
「なかなか良かったわよ」
「はい」
 どうしても緊張してしまう。
「どうしたの?」
「いえ、セリーヌさまがあんなに皇帝と親しいとは思っていなかったんです」
 思わず敬語になってしまった。
 セリーヌは吹き出した。
「なに言ってるのよ。皇帝は優しい方だから誰にでもあのように話されるのよ。あたしが特別親しいわけじゃないわ」
「でも、何度も皇帝にお会いになった事があるんでしょ」
「そりゃあ貴族だもん。それに皇帝は女好きだから、何かにつけて貴族の娘を集めるの、側室にならないかって口説いてまわるんだから」
 セリーヌはあっけらかんと話す。彼女の話を聞いているとそんなもんかと思えてくる。
「でも、側室を断ったんですか?」
「側室なんてまっぴらよ。絶対にいやだわ」
 本気で嫌そうに話す。ちょっと意外だった。日本の感覚では当然の事だが、セリーヌは愛のある結婚より権力を選ぶと思っていたのだが。
「皇帝の側室ですよ。すごい権力が手に入るんですよ」
「いやよ、バカにしないで」
 セリーヌは冗談とも言えない雰囲気で憤慨している。
「なぜです?」
「なぜって…… 側室はいやなの。やはり夫婦は私の両親みたいなのでなくちゃ」
 何げない一言だったが、セリーヌの本当の気持ちがわかった。やはり、セリーヌも乙女心を持っているのだ。かわいらしく普通の結婚を夢見ているところもあるのだ






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