俺の王妃は侵略者

空中戦
 昼からは健二は引き継ぎ書を作っていた、
 もう会社に行くことはないだろうから、仕事の整理をしておかなければならない。次に担当する人が困らないように仕事の内容を書き出しておくのだ。
 窓際の机にパソコンを置いて仕事を始めた。まどからは真っ青な地球が見えていて、すばらしい環境だった。パソコンもセリーに電源を準備してもらって動くようになっていた。ついでにセリーはインターネットにもつながるようにしてくれた。
 健二が仕事をしているとセリーヌがやってきた。そして、彼の横にすわって仕事を始めた。おしゃべりをしながら仕事をする方が楽しいと言う。彼女は地球侵略の計画書を作っているらしい。
「攻撃用の宇宙船はどのくらいの数が必要だと思う?」
 セリーヌが時々そんな事を聞く。
「しるか、そんなもん」
 健二は真面目に答えないのだが、セリーヌは質問しながら考えるくせがあるらしく、いろいろ質問してくる。
 そのうち、引き継ぎ書は出来上がった。
 健二は出来上がった引き継ぎ書を眺めていたが、さて、これをどうやって渡せばいいんだろう。窓の外を見ると地球が見えていた。無数の宇宙船が太陽の光を反射してまばゆく輝いている。
「セリーヌ」
 健二は声をかけた。
「なに?」
 セリーヌは顔を上げた。
「地球に行けないかな。会社を辞めるんで、きちんとしておきたいんだ」
「いいわよ」
 セリーヌは明るく答えるが、そのまま何もしない。
「頼むよ」
「いいわよ」
 セリーヌはおもしろそうに笑っているが、やっぱり、何もしない。
「だから、頼むよ」
「だから、いいわよ」
「つまり、宇宙船を地球にやってくれないかな」
「だから、やっていいわよ」
「えっ……」
 驚きだった。俺が宇宙船を動かしていいと言っているのか。
「でも、どうやって?」
「セシルがいるでしょ」
 そうか、セシルに命令すればいいだけだ。
「でも、俺がかってに動かしていいの?」
「勝手にって、これはあなたの宇宙船よ」
 セリーヌはビックリしている健二の顔をおもしろそうに見つめている。
「これは、君の宇宙船じゃないの?」
「まさか、貧乏貴族の娘がこんなすごい宇宙船を持てるはずないでしょ。これは地球王が地球に宮殿を作るまでの仮の住まいにするための宇宙船なの。だから大使館につながるクラック装置が置いてあるでしょ」
 驚くほかはなかった。これは俺の宇宙船なのか。
 健二はどう反応していいのかわからず、何も言葉が出てこなかった。
 セリーヌがおもしろそうな顔で健二を見ているので、なんとなく腕時計を見た。時計は五時をさしている。もうすぐ会社の終業時刻だ。
「セシル、地球へやってくれないか」
「承知しました」
 健二の後ろに控えていたセシルが頭を下げた。
「ああ、急いでくれ。もうすぐ会社が終わるから」
 たぶん、残業するだろうから、大丈夫だとは思ったが時間までに会社に着きたかった。
「了解です」
 窓から見える地球がぐぐっと傾くと、ものすごい早さで回転を始めた。地球が回っているのではなく宇宙船が日本の上空に向かっているのだ。
 そしてすぐに宇宙船は真っ逆さまに急降下を始めた、ぐんぐん雲が近づいてくる。あまりの急降下にジェットコースターに乗っているようで怖くなってしまう、思わず椅子の上で足を踏ん張ってしまった。
 宇宙船が雲を突き抜けると、すぐ目の前に海があった。
「わー!」
 健二は宇宙船が海に突っ込むと思って、思わず悲鳴をあげてしまった。
 しかし、宇宙船は急カーブを描くと水面すれすれのところで水平飛行に移った。
「セシル、やりすぎ!」
 セリーヌが怖い声を出す。
「あんたのご主人さまを怖がらせてどうするの」
「すみません」
 セシルが頭を下げた。宇宙船の操縦そのものをセシルがやっているのか。
 宇宙船は急激に速度を落とすと、ゆったりと海の上を飛び始めた。
「これなら怖くありませんか?」
 セシルが聞く、今度は遅すぎる感があるがしかたがない。
「ああ、大丈夫だ。宇宙船は君が操縦しているの?」
「そうです。宇宙船の操縦装置を私がコントロールしています」
 ロボットの人工知能と宇宙船のコンピュータは完全に連動しているらしい。
「今、健二さまのアパートに向かっていますがそれでよろしいでしょうか?」
 セシルが聞く。
「いや、俺の会社に行って欲しいんだ。地図、あるかな?」
 壁にあった巨大なテレビ画面に地図が映った。セシルが写してくれたらしい。
 健二は立ち上がるとテレビの前に立った。地図の雰囲気は地球のとずいぶん違う、道路も鉄道も描かれてないのから位置関係が掴みにくい。それでも会社の位置を見つけた。
「承知しました」
 健二が地図を指差すとセシルが意気揚々と答えた。
 宇宙船がゆっくり飛んでいるので時間がかかったが、やっと海岸が見えてきた。もうすぐだ。
「ジェット戦闘機が接近してきます」
 セシルが報告する。どうやら、日本に未確認の飛行物体が接近しているので自衛隊の戦闘機が警戒のために飛び出してきたらしい。
「距離は?」
 急にセリーヌが真剣な顔になった。
「あと1分で遭遇します」
「シールドをはって!!」
 緊張した声でセリーヌが命令する。それから気まずそうに健二を見ると。
「ごめん、ここは防衛処置をとった方がいいと思って…… 地球を取り巻いている私たちの宇宙船が戦闘準備を進めていることを地球側が察知しているかもしれない。だとしたら攻撃してくるかもしれないわ。もし、核ミサイルを撃たれたらシールドがないと防げない」
 セリーヌは健二が宇宙船の操作を命令しているのに、自分が割り込んだ事を申し訳なさそうに説明する。しかし、いくらなんでも自衛隊の戦闘機が核ミサイルを撃つことはないだろう。
「戦闘機がまっすぐこちらに向かっています。今、ミサイルを撃たれたら避けられません」
 セシルの声も緊張している。
「かわして!!」
 とセリーヌ。
 宇宙船が急に猛烈な勢いで傾いた。あっと言う間に上下が逆になる。宇宙船が急旋回しているのだ。思わず机につかまってしまった。しかし、上下が逆なのに普通に座ってしていられる。それに、これだけの急旋回をしているのに何も感じない。どうやら宇宙船の中は人工重力かなにかで保護されているらしい。
「戦闘機とすれ違います」
 セシルの声に窓の外を見た。戦闘機が見えるかもしれない。しかし、斜めになった地上がぐっと回り込んでくる所が見えていて目が回りそうだ。戦闘機なんてどこにいるのかわからない。
「スピードを上げて戦闘機を振り切って!!」
 さっきは申し訳なさそうにしていたのに、もう完全にセリーヌが仕切っている。彼女はこういう性格なのだ。
 宇宙船は速度を上げた。
「音速を越えますか? 音速を越えると衝撃波で地上に被害が出ます」
 セシルもセリーヌに判断を仰いでいる。健二のロボットなのにセシルもセリーヌの方が上だと思っているのだ。
「上よ、上昇して! 一旦戦闘機をまいてから会社に行きましょう」
 宇宙船は急上昇を始めた。ぐんぐん登っていく。それから、急に向きを変えて降下を始めた。
「戦闘機はついてきません」
 セシルがセリーヌに報告する。
「わかった。さあ、会社へいきましょう」
 セリーヌはこれで一安心というように窓の外を見ている。
 健二はそんなセリーヌをじっと睨んでいた。宇宙船の操縦を健二から奪い取った事をなんと思っているんだろう、と思ったが、彼女は平気な顔をして前を見ている。
 ふと、セリーヌが健二を見た。
「どうしたの?」
 彼女はぜんぜん何とも思ってないらしい。
「いや、別に」
 ふと見ると、セシルが何度も何度も頭を下げていた。セシルはセリーヌに判断を仰いだ事をまずかったと思っているらしい。





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