俺の王妃は侵略者

喧嘩
 セリーヌと一緒に夕食を食べていたが、側室の事が気になっていた。側室の件はできるだけ早くセリーヌに言った方がいい。だまっていて、セリーヌが別のところから側室の事を知ったらまずい事になる。
 しかし、さすがに側室の事は切り出しにくかった。
「マスコミの質問もアマンゴラを非難するようなものはほとんどなかったわ」
 セリーヌは、今日アマンゴラであった地球のマスコミ向けの記者会見の事を話していた。
「アマンゴラを見てビックリ仰天といった感じね。たぶん、降伏する方に傾いたと思うわ。あなたの事はまだ隠してある。戴冠式の時に全地球に紹介するの。この人が地球の支配者だってね」
 セリーヌは陽気に話す。
 しかし、健二はその言葉を遮った。
「セリーヌ、話があるんだが……」
「なに?」
 セリーヌは明るく健二を見つめている。
「国王は側室を持てると聞いたんだが……」
 健二は切り出したが、セリーヌの表情が変わった。怖い顔をしている。
「そんなの過去の遺物よ。王位継承者がいなくなると混乱するからって事になっているけど、今の医学で子供が産まれないことはなくなったわ。それに男が原因の不妊もいくらでもあるのよ、側室がいたってどうしょうもないしゃない。男の子が産まれないと困るというのも、今は男女どちらでも王位を継承できるんだから関係ないでしょ」
 セリーヌは不快そうにそう言うと、のぞき込むように健二の顔をみつめる。
「確かに法律ではそうなっているけど、側室は持たないでね」
 言葉はやさしかったが有無を言わさない迫力があった。
 やはりセリーヌは側室は嫌なのだ。当然だと思った。セリーヌの感覚の方が自然だ。しかし、このまま黙っているのはまずい、サラの事は説明しておかないといけない。
「しかし、俺と君とは本当の夫婦になるわけじゃないだろ」
「本当の夫婦?」
 セリーヌは眉をしかめた。
「本当の夫婦になるのよ」
「法律上はそうだけど、実態は違うだろう」
「どう違うの?」
 少し意外だった、セリーヌはそうは思っていないらしい。
「俺は、いればいいだけだろう」
「……」
「俺は君の野心のために必要なだけで、ただ生きていればいいだけの存在だろう」
「違うわ」
 セリーヌが大声で健二の言葉を遮った。
「そんなんじゃない、あたしにそんなつもりはないわ」
「しかし、俺は逃げたら殺されるんだぞ」
「それは、あの約束を破ったらの話よ」
「同じことだろう」
「違う、違うわ」
 セリーヌは驚きを隠せない。
「誤解よ、ぜんぜん誤解している。私はあなたと幸せな家庭を築くつもりなの。あなたが国王であたしは王妃。そりゃあたしは地球の支配者になりたいんだけど、それはあなたと一緒よ」
「俺は地球の支配者になんかなりたくない」
 口論になったので思わずそう言ったが、セリーヌが幸せな家庭を築きたいと思っていたのは意外だった。てっきり利用されるだけだと思っていた。もしセリーヌがそんな気持ちだとわかっていたら側室なんか断ったのだが。
「俺は無理やりここに連れて来られたんであって、地球の王だなんてそんなものに興味はない。俺は利用されるだけであって、君が俺なんかと本気で結婚するはずはないだろう。ただの、見かけ上だけの夫婦で実際は話をする機会も滅多にないような関係になるんだと思っている」
「違う、絶対に違う。利用するなんてそんなつもりはないわ。本気で結婚するつもりよ」
「本気たって、いきなり政略結婚することになったと言って会わされたんだぞ。そんなんで、本気も嘘もないだろう」
「それはそうだけど、結婚してから愛し合うこともあるわ。あたしの両親も貴族の家系を保つための政略結婚だったんだけど仲むつまじくやっているわ」
 セリーヌは必死で説明する。セリーヌがそんな風に考えていたなんて信じられなかった。
「しかし、じゃあ、今、答えてくれ。俺の事は好きじゃないだろう。本心は嫌いだろう」
「違う、好きよ」
「取り繕うのは止めてくれ、本当の気持ちを答えるんだ。君が俺のアパートにやってきた日の気持ちはどうなんだ。いやな男、と思っただろう」
 セリーヌは思わず顔をしかめた、少し考えている。
「思ったわ、それは認める。でも、健二さんって素敵よ、付き合ってみればいい人だわ。確かに燃えるような恋ではないけれど、好きだと思っている」
 セリーヌは真面目な顔で答える。
 これでサラの事がなかったら有頂天になって喜んだだろう。あの、セリーヌが健二の事を好きだと思っているのだ。
 しかし、しかし、サラのことを黙っているわけにはいかなかった。後悔の念が沸き起こってくる。もっと早く心を開いて話し合っていれば、もっと早くセリーヌの気持ちを確認しておけばよかったに……
「知らなかったんだ。君がそんな風に思っているなんて……」
「……」
「いや、だから、俺も自分の家庭をなんとかしようと思って……」
「自分の家庭って?」
 セリーヌは不安そうに聞く。
「だから、君とは本当の夫婦にはならないんだと思っていたから……」
「……」
「サラとは夫婦になれそうだと思ったんだ」
「サラ?」
 彼女は意味がわからないというようにつぶやく。
「サラを側室にすることにしたんだ」
 やっと言う事ができた。しかし、これは間違いだとはっきり気がついた。
「でも、それは取り消す……」
 そう言いかけたが、
「サラを側室!!」
 セリーヌの悲鳴のような声に遮られてしまった。
「あの、サラが側室」
 セリーヌが仁王立ちになった。
「もう、手を出したの?」
「まさか、そんな事はしない」
「いつからなの?」
 セリーヌが怒鳴る。あっという間に浮気をした男の立場に追い込まれてしまった。
「側室なんて、絶対にいやよ!」
 セリーヌが叫ぶ。
「だから、断るよ」
「あなたって、最低!!」
「君の気持ちを知らなかったんだ」
 健二も叫んだがセリーヌは完全に切れていた。
「この人でなし!!」
 セリーヌはいきなりテーブルの上のコップをつかむと健二めがけて投げつけた。危うく顔に当たりそうになったが、コップは後ろの壁に当たって砕けた。
 セリーヌの目に涙が光っているのが見えた。彼女はそれを見せまいとして振り向くと食堂から駆け出していく。
「セリーヌ」
 健二は後を追った。
「知らなかったんだ。だから、あの時はそう思ったんだ。サラと夫婦になろうって、でも断るから」
 そう、叫びながらセリーヌを追いかけたが、彼女は自分の部屋に駆け込むとドアを激しく閉める。健二は目の前で閉まった扉にぶつかった。あわてて扉を開けようとしたが開かない。
「セリーヌ、ここを開けてくれ」
 健二は扉をたたいた。
「勘違いだ、側室は取り消す!! 俺は今の今まで君の気持ちがわかっていなかったんだ。本当は君の事が好きなんだ。ただ、君が俺の事を何とも思っていないと思って諦めていただけなんだ」
 しかし、扉は開かない。
「俺は君が好きだ。大好きだ。ただ、所詮無理な片思いだと諦めていただけなんだ……」
 健二は扉に向かって叫んだ。しかし、返事はなかった。
 健二はしばらく扉をたたいていたが、扉が開く気配はなかった。


 セリーヌは部屋に閉じこもったままだった。夜も遅くなり健二は一人でベットに入っていた。
 しかし、気分は最高だった。セリーヌがあんな風に考えていたなんて夢のようだった。セリーヌと本当の夫婦になれる。セリーヌと仲良く暮らしていけるのだ。セリーヌは今は怒っているがそのうち落ち着くだろう。側室を取り消せばまた仲良くなれると思った。健二にだってそれなりの理由があったのだから一方的に悪い訳じゃない。
 サラは悪い人ではないから話せばわかってくれると思った。
 さあ、寝ようと思って布団に潜り込んだ。

 ドカンと音がして健二の部屋の扉が蹴破るようにして開いた。そこにはセリーヌが鬼のような形相で立っていた。彼女はつかつかと健二の方に歩いてくる。セリーヌが怒鳴り込んで来たのだ。しかし、セリーヌは例の薄いネグリジェを着ていて歩くたびに乳房が揺れるのがわかった。怒鳴り込んできたのに、なんでそんなものを着ているのだ。
 セリーヌは健二の前に立った。
「あやまりに来たわ」
 彼女は威張ったように言う。
「私が間違っていた。殺すと脅しておいて、あなたが私を好きになるはずがないわよね。思い上がっていたわ」
 言葉だけは意外としおらしい事を言う。ただ、態度が非常にでかいのだが。
「でも、あなたが私をどう思っていても関係ないの」
 彼女はベットに這い上がってくると、健二の横に潜り込んで来た。
「サラには絶対に負けられないの、私が頑張って地球を住みやすい星にしても、それをサラの子供に奪われるなんて考えられない。だから、絶対に私が先に妊娠しなきゃならないの。お願い、私が妊娠するまでサラを抱かないで」
 セリーヌが抱きついてきた。あまりの展開の早さにどうしたらいいか分からなくなってしまう。それでも、セリーヌの気持ちが痛いほどわかった。喧嘩して腹がたっているのに、こんな屈辱的な和解を申し出なければならなかったセリーヌの悔しさが想像にかたくなかった。意地をはってもたもたしていたら、サラに先を越されてしまう。そう思って、自分の感情をすべて押し殺して、ここにあやまりに来たのだ。ただ、あやまるといってもセリーヌにはしおらしくあやまる事が出来ない。だから、こんな威勢のいい謝罪になったのだ。
 健二は抱きついてくるセリーヌを押し戻した。
「セリーヌ、俺が悪かった。君の気持ちがまったく分かってなかったんだ。それに王位継承の問題もわかっていなかった。悪かった、あやまる。側室はきっぱり断る」
 セリーヌの目を見たが彼女は固い表情を崩さない。
「君が好きだ。君と幸せな家庭を作りたい」
 健二はセリーヌを力一杯抱きしめた。





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